当初心配していたのは、里見さんの貫禄で手代という役柄をいかに演じるかという事。
しかし、登場から腰をかがめて、背を丸め、声のトーンもいつもより高め、そして、なによりも新鮮だったのが、里見さんの「京なまり」!
いつもの啖呵はどこへやら・・・という、やわらかい京なまりの台詞も手伝って、その心配は一気に吹っ飛んだ。
ストーリーをご覧いただければわかるが、おさんと茂兵衛はある誤解がきっかけで二人の気持ちを知る事になる。
舟で逃げ延びた二人・・・
おさんは茂兵衛に実家に帰るようにすすめるが、おさんの本心を悟った茂兵衛は自分が秘めていたおさんへの思いを打ち明け、死出のお供をすると言う。
それを聞いたおさんは自分も人の妻でありながら、茂兵衛に思いを寄せていたと・・・
二人は覚悟を決めて、再び舟に乗り込むが、好きあった者同士、少しでも一緒にいたいのが女心・・・というおさんの言葉で二人は生きられるところまで生きてみると決心し、結ばれる・・・。
一幕目の見せ場は秘めていたお互いの気持ちをいかに表現するか・・・
人間が本来求めるのは死ではなく、愛する人とともに生きる事であるという、揺れる二人の気持ちをあてもなく漂う舟と重ね合わせた演出となっていた。
二幕目は、茂兵衛の実家で仲良く過ごす二人の場面から始まる。
おさんの事をいつまでも「おさん様」と呼ぶ茂兵衛に、しきりに「『さん』と呼んで!」と甘えるおさん・・・照れくさそうに、顔を赤らめながら小さな声で、やっと「おさん」と呼ぶ茂兵衛・・・喜ぶおさんを、茂兵衛は「おさん、おさん、おさん!」と抱きしめる。
幸せな二人の心が伝わるシーンだ。
そこへ下川さん演じる、茂兵衛の父・源兵衛がいいタイミングで横槍をいれる。
ここでどっと客席が盛り上がった。
そんな幸せもつかの間、二人の居場所を聞きつけた助右衛門らがおさんを連れ戻しに来る。
しばらくして連れ戻されたおさんにお玉から正月の晴れ着とともに知らせが届く。茂兵衛がおさんに会いに来ているという・・・
おさんは吹雪の中を茂兵衛に会いたい一心で飛び出してゆく。
ところが、梅龍はおさんにお玉と茂兵衛が祝言を済ませたと告げる・・・おさんは嘆き悲しみ、雪の中をさまよう・・・おさんの声に気づいた茂兵衛は引き止める梅龍の刀を取り、「茂兵衛の命は、おさんの命!」と、おさんを追う。
雪の中に倒れているおさんを見つけ、こごえるおさんを暖める茂兵衛。
正月の晴れ着を見せてくれと頼む茂兵衛に精一杯の晴れ姿を見せるおさん・・・
そして二人は今度こそ「命を終える」決意をする。
刀をかざし震える茂兵衛、手を合わせるおさん・・・しかし茂兵衛はおさんをなかなか刺せない。
するとおさんが、茂兵衛の実家で二人で踊った山鹿唄が聞こえると・・・
二人は降りしきる雪の中を力の限り舞う・・・
倒れたおさんを抱きしめ、暖める茂兵衛・・・
そして二人の美しい最期が訪れる。
「色っぽい!」
も〜、今回の芝居は朝丘さん以上に里見さんが色っぽく見えた。
ファン心理としては、ここまでアツアツの二人を目の当たりにしてしまうと、「これ里見さんの監修?」とニヤけてしまいそうだ・・・
なんて書いたら、怒る方もいるだろうか???
とにかく、抱き合うしぐさのひとつひとつが非常に細かい。
ファンの方々が、しっかり目をつけていたのは、最期に倒れたおさんを抱きしめ、暖める時に、里見さんが朝丘さんの袖に手を入れるところ・・・
それにしても、皆さん口を揃えておっしゃっているように「本当に美しい!」舞台演出もさることながら、やはり、里見さんと朝丘さんの息の合った演技と見つめ合う二人の表情やしぐさは、きっと、観客を釘づけにしたに違いない!
大詰めではドライアイスや大量の紙吹雪を使用しての演出で客席の数列目まで舞う勢い。最前列はもう紙吹雪にまみれてしまった。
これが、客席と舞台を一体にするには効果的ではあったのだが、「花の生涯」の最期のように、笑みを浮かべて最期を迎える里見さんの茂兵衛に対して、朝丘さんが唇に紙吹雪が付く事を気にしてか、口をきつくつぼめているために、表情がやや固く感じた。
また、客席も飛んでくる紙吹雪に気をとられ、せっかくのシーンに集中できていない人もいたように感じた。
しかし、ドライアイスの冷たさやスモークの熱さ、紙吹雪の勢いなどを体感できるというのもなかなか楽しめたし、これはこれでよいのかもしれない。
脇役陣では、成瀬さんがいつものヤクザ者とは全く違った、道楽者のとぼけた若旦那を演じて客席を沸かせていた。
また、女中部屋に「ミャ−ミャー」と猫の鳴きまねをしながら忍び込む、瑞穂さんの演技も貴重かもしれない!
この作品で改めて里見さんの芸域の広さを痛感した。
初挑戦の近松作品・・・まだまだ研究の余地があるとおっしゃっていたが、
若い頃語っていたように、すべてを演じ切った千秋楽には、男泣きに泣いてしまわないか心配だ!
本当に素晴らしかった! |